４島津村 - 国衆と歩く中世の北九州

福岡県地理全誌巻之四十四（第五大区）　遠賀郡之六

　（二小区二村之内）島津（しまづ）村

１．概説
２．戸口・田圃・租税・山林
３．橋梁・池塘・船舶・河渠・淵池
４．神社・小社・仏寺・古蹟
５．附記（物産）

１．概説

（西南）福岡県庁道程十一里二十町

彊域　東、猪熊村【二十三町余】、東南古賀村【三十町】。南、若松村【一町余】、廣渡村【二十二町余】。西北、芦屋村【十五町余】に接し、人家は、本村【峯ヶ浦・中屋敷・坪ノ内。四十八戸】、澁屋ｼﾌﾞｼﾔ【二戸】二所にあり。

昔は岡水門の入海甚だ広くして、此村、廣渡、舘屋敷、今古賀村と西の方尾崎、鬼津、若松、芦屋村の間、江海溢れて渡渉容易からざりしと云う。後世、水漸くあせて、数村の佃となりし。慶長の頃までは猪隈村も此村の内にありしが、今は別村となれり。村の名義は古の島門駅址にして、島郷と陸路との間の水路を経てここに至れるによりての名なり。【島門を島津と云うは、「つ」と「と」は通音なればなり。或いは云う「此村、古え入海の時、島なりしかば村名となれるなるべし」と云えり。島門のことは詳らかに下に見ゆ】

村位、下。地形、平低。東西に大川ありて孤島の如し。運送の便、上【芦屋町十五町】。

土質、三分赤埴土、七分沙。乾地。地味、下。

田は中稲、麦、菜種。畑は麦、菜種等を作る。水旱ともに患いあり。また薪秣乏し。土産、川魚。

２．戸口・田圃・租税・山林

○戸口

一　戸数　五十四戸

　　　　内

　　　一　士族　　一戸

　　　一　平民　　五十四戸　

一　口数　三百十五　口

　　　　　　内

　　一　男　百六十二　口

　　一女　百五十三　口

【職分】従者【男　二人】。医術【男　四人】。農【男　七十二人、女　八十一人】。工【男　二人】。雑業【男　六人、女　六人】。雇人【男　八人、女　五人】

○田圃

一　田畑段別　　　　八十五町二段八歩

　　　此石高　　　八百十四石五斗五升五合　

　　　　　内

一　田段別　　　　五十九町七段五畝二十一歩

　　　　此石高　　　七百四十二石二斗三升七合

一　畑段別　　　　　九町一段九畝十二歩

　　　　此石高　　　七十二石三斗一升八合

一　大縄田畑段別　　十六町二段六畝五歩

○租税

一　米大豆　　　　百二十六石三斗五升二合　　　　　　正租

　　此代金　　　　三百五十二円八十二銭四厘

　　　　　　　　　　　内

　　一　米　　　　　百十二石八斗二升五合

　　　　此代金　　　二百十九円六十九銭三厘

　　一　大豆　　　十三石五斗二升七合

　　　　此代金　　　五十三円十三銭一厘

一　米大豆　　　　　三石七斗九升一合　雜税

　　此代金　　　　　十円五十八銭六厘

　　　　　　　　　　　内

　　一　口米　　　　三石三斗八升五合

　　　　此代金　　　八円九十九銭一厘

　　一　口大豆　　　四斗六合

　　　　此代金　　　一円五十九銭五厘

一　金　　　　　　　三円十三銭一厘

○山林

一　山段別　　　　　一段六畝二十歩　　　元証文山

３．橋梁・池塘・船舶・河渠・淵池

○橋梁

一　橋　　五所

　　　　　　　内

一　石橋　一所【大川溝筋渡り上り　官費】　長一間一寸　幅四尺

一　土橋　一所【同溝筋塚の木　　　同上】　長二間三尺　幅四尺

一　同　　一所【同溝筋山の下　　　同上】　同上

一　同　　一所【同溝筋髙黒　　　　同上】　同上

一　同　　一所【同溝筋山の下　　　同上】　同上

○池塘

一　池　一所【峯ヶ浦　官費】　水面　三反三畝十二歩　　水掛田　一町歩

〇牛馬

一　牛　三十二頭

　　　　　内

　　一　牡　　　二頭

　　一牝　　　三十頭

一　馬　　　　　二十頭

　　　　　　内

　　牡　　　　　四　頭

　　　牝　　　　十六　頭

〇舩舶

一　川漁船　　　　四　隻

〇河渠

　　　遠賀川

南、廣渡村界より流れ来たり、村の西を過ぎて、芦屋村界に入る。長千五十一間。幅二十五間。平水一尺五寸。満水六尺。渡場一所【峯ヶ浦】

〇淵池　

天然池　一所

村の東四町四段間にあり。水面二段歩。深七尺。

４．神社・小社・仏寺・古蹟

〇神社

【村社】伊豆神社【本殿　横一間、入二間。渡殿　横二間、入二間半。拝殿　三間四面。石鳥居一基。社地五十坪。氏子五十五戸】

村の西、川邉にあり【伊豆、昔は稜威と書けり】。祭神は、瓊々杵尊・木花開耶姫命。相殿に伊豆波女神【宮永保親云く「此神、一名は速秋津姫命と申す。この神は湊より海に入る地を守りたまう神徳あるゆえに、湊内にこの社あり。上代この辺りは海なりし由なり】・神直日神・大直日神を祭る。祭日は九月十九日。社地に楠の大木あり【周四囲】。（写真は伊豆神社本殿）

村老の伝えに永享の頃、この村に猪股五郎左衛門と云う者あり。女子を持てり。容色甚だ美なり。古賀村に足谷四郎と云う者ありて「彼女を娶らん」と云うに、猪股これを許さざりしかば、強いて聟に来たりしを殺せり。その後、足谷が霊祟りければ、村の西一町ばかりに小祠を立てその霊を祭る。里民、これをショウガイババと云う【生害馬場の意なるべし。一説に女子の霊を祭る。彼女、生涯嫁せず。伯母にて過ぎし故、生涯伯母の義なりと云う】。

また、あしなが躍りと云う戯を毎年この社地にて興行す。かの霊を慰めて、「悪しきことなかれ」との謂なるべし。この故事によりて、この村と古賀村との男女、今に至りて婚姻を結ばずと云う。

摂社一、御歳神社【福智山】。末社二、貴船神社【社地】、須賀神社【権現山】

〇　小社

若恵比須神社【坪内】。河上神社【射場ノ元】

〇仏寺

小堂　一所

観音堂【中屋敷】。

〇古蹟

島門駅址

　延喜兵部式に云う「筑前国駅馬島門二十三疋とあり。この邊りの数村、即ちその地なり。大宰府より京に上るには、宗像郡津日駅よりこの島門を経て当郡夜久駅【今の上津役村なり】に至れり。

　　　　　　　（写真は島門駅址の碑）

　この邊りを島門と云いし由は、島郷と陸地との間の江を渡りて水路ここに至るによりての名なるべし【波多野氏の記に「島津村に山あり。猪隈村にも山あり。古え、この辺り入海の時は相並びたる島の如くにして、芦屋湊また洞海双方より、この島に入り来るときは、両山の島山の間を抜け出て、河上に上りしなり。故に島門と云うべき地のさまなり。猪熊村は慶長の頃、島津より別れたる村なり。古は両村の山をさして島門山と云えり」とあり。式に駅馬二十三疋とあるは、これ大路にしてまた水駅を兼ねたる故なるべし【厩牧令に「凡諸道置駅馬、大路二十疋」。義解に「謂山陽道、其大宰以去、即為小路也」】。

京より大宰府に下る官人、陸地は素よりにて海路を下る官人も岡津よりここに来たり。往来繁多なるによりて、駅馬二十疋なるをここには二十三疋置かれしなり。

三代実録巻二十三（貞観十五年五月十五日戊寅）「先是、大宰府言、筑前國司偁、天長元年六月廿九日格曰、諸國渡船廿年已上為期買替、而嶋門渡二艘【今の本、島を鳴に誤る】、不知始置之時、今既朽損、利渉失便、況復河岸頽欠、渡口闊遠、公私往還、累日逗留、望請、以正税稲、乃早買充、依請許之」と見えたり。

雜令に「凡要路津済、不堪渉渡之處、皆置船運渡、依至津先後為次、国郡官司検校及差人夫、充其度子二人以上、十人以下、毎二人、舩各一艘」。厩牧令の義解にも「若応水陸兼送者、亦船馬並置之」とあるは、この駅などの事なり。

【万葉集巻三】　　柿本朝臣人麿、下筑紫国時、海路作

大王之遠乃朝廷跡蟻通、島門乎見者神代之所念

海路を来たる官人のここに来れる事は、この歌を以ても知るべきなり【遠朝廷と云えるは大宰府をさして云えり。神代とは神功皇后征西の時に、岡津に泊りたまえることをよめるなり】。鴨長明が無名抄に「筑紫の島門と云う所に通いける者と云いけるは」と書けるも此所なるべし。今、島門の名の偶此村に遺りたるは、彼の大宰府は廃して、その名安楽寺の邊に存せるが如し。此村の田字に、渡上ﾜﾀﾘｱｶﾞﾘ、また、波戸場の元など云う所あり。向いの若松村の内に渡口ﾜﾀｼｸﾞﾁと云う地もあり。これまた古名の遺れるなるべし【波多野氏云く「波上・波止場元・渡口などの字は、元禄年中までは、川のさま、今とは異なる折の遺名にて、往古よりのにはあらず】。