35 畑村

村別 福岡県地理全誌

福岡県地理全誌巻之四十五 (第五大区) 遠賀郡之七

【十五小区二村之内】畑(はた)村

1.香月村概説

【西南】福岡県庁道程十三里二十町余

彊域 東、大蔵村【二里二十八町】・豊前国企救郡田代村【一里十八町】・同国同郡合馬村【二里十八町】。南鞍手郡上頓野村【二里】西南、同郡金剛村【二十四町】・西馬場山村【十五町】・香月村【二十町】。北、小嶺村【十八町】・上上津役村【一里】に接し、人家は、本村【二十三戸】、中畑【二十戸】、奥畑【隠館カクレヤカタ・黒木・大場床・大鋸畑 十一戸】、白木【十七戸】、草木谷【四戸】、田床【五戸】の六所にあり。東西一里二十町余、南北一里余。官道の南の谷中にありて、豊前国と高山を以て境とす。東南北三方皆山にて、西一方少し平地あり。古は香月畑と称して、香月村の内なりしが、後に分かれたり。村位中。地形険阻。運送の便下【黒崎駅官道十五町】。土質、北赤土、余は皆青土小石交じり。乾地。地味中。田は早稲、麦。畑は麦、豆等を作し、山間の田多く、寒落の患あり。魚塩乏し。土産、椎茸、紙、葛、柿、生蝋、材木。

2.戸口・田圃・租税・山林

○戸口
一 戸数  七十九戸
    平民  

一 口数  四百一口
       内
  一 男 二百八十六口
  一 女  百八十五口  

 
【職分】農【男百十五人、女百六人】。工【男三人】。雑業【男四人、女二人】。雇人【男十二人、女四人】

○田圃
一 田畑段別      二十三町九段二畝六歩五厘
    此石高     百四十二石四斗九升三合
     内
一 田段別       十五町七段八畝四歩七厘
    此石高     二百二十一石六斗八升五勺

一 畑段別       三町四段八畝二十七歩三厘
    此石高     二十石八斗一升二合五勺

一 大縄田畑段別    四町六段五畝四歩五厘

○租税
一 米大豆       百二十七石一斗八升七合     正租
   此代金      三百四十七円七銭八厘
             内
  一 米       百十九石九斗二升三合
     此代金    三百十八円五十四銭七厘

  一 大豆      七石二斗六升四合
     此代金    二十八円五十三銭一厘

一 米大豆       三石二斗六升六合 雜税
   此代金      十円四十一銭三厘
        内
  一 口米      三石五斗九升八合
     此代金    九円五十五銭七厘

  一 口大豆     二斗一升八合
     此代金    八十五銭六厘

一 金       三円三十三銭

○山林
一 山段別 九十三町三段三畝
       内
  一 四十九町九段五畝歩         官林
  一  十五町四段五畝歩         草山
  一  十五町一段九畝歩         野山
一   二町三段三畝十歩        元証文山
  一   九町六段四畝歩 元古野山
  一     三段五畝歩         社山
  一     四段一畝歩         寺山

3.橋梁・牛馬・山岳・河渠・瀑布

○橋梁

一橋 三所
 一 土橋一所(畑川筋下川 民費)     長六間   幅一間三尺
 一 同 一所(白木川筋小嶺たを 同上)  長六間   幅一間
 一 同 一所(同川筋井手口 同上)    長五間   幅一間

○牛馬
一 牛 六十七頭
     内
  一 牡  十六 頭
  一 牝 五十一 頭

一 馬    十六 頭
  牡 
 

○山岳
  尺岳

 村の南にあり。山麓大場床より絶頂へ二十一町四十間。この辺にては最も高山にして、東は豊前国規矩郡合馬村、南は鞍手郡頓野村、西南は同郡金剛村に界えり。従前、彦山の山伏、秋峰と云うに、登りて修法せり。絶頂に尺岳神社あり。日本尊を祭る。
 その側に大石あり【高六尺、幅三・四尺】。古老の伝に「日本武尊征西の時、この山に登臨し、この石に寄り添い、御身の長を比べたまいしかば、この石、俄かに縮まりて、御丈よりも尺ばかり低くなれるに因りて尺岳と云い、又、この石を御背比石ミセイクラベイシと呼ぶと云えり【香月家記にも見ゆ】。

  高尾山
 村の東にあり。鞍手郡上頓野村に界えり。山麓大場床より絶頂へ十二町余。険阻。雑木立なり。

  観音山
 村の東にあり。東は豊前国規矩郡合馬村、北は同国同郡田代村に界えり。山麓大場床より絶頂へ十七町余。険阻。雑木草立。尾続きに高坪山あり。

○河渠
    香月川
 
源、村の東南尺の岳・荒谷両所より出で、村の南を過ぎ【この邊では畑川とも云う】、香月・中間両村を経て遠賀川に入る。総計二里二十八町四十三間
村内の長二千七百二十三間、幅平均三間半。平水一尺、満水四尺。清水急流、中間村に至りて緩やかなり。土橋一所【下川】。

○瀑布
    音イン瀧
 
村の東、大場床より十七町ばかり山奥にあり。三段に分かる。一つは長一丈九尺、幅六尺。一つは長三丈五尺、幅四尺。一つは長二丈四尺、幅三尺。一ノ瀧、二ノ瀧、三ノ瀧と称す。水源は音滝谷より出で、流末は香月川に入る。

4.神社・仏寺・古蹟・金鉱迹

○神社
(村社)杉守神社
香月村にあり。

小社 七所 
尺岳神社
【尺岳の絶頂にあり。小石祠なり。祭神日本武尊。相殿吉備建彦命・大山祇命。祭日八月二十二日】。同下宮【山麓中畑にあり。山上の社と相去ること二十四,五町ばかり。正徳二年(1712)、本社より移し祭る】。佐瀬生神社【下宮社地】。高住神社【黒木】。道祖神社【道祖】。貴船神社【白木】。菅原神社【田床】。

○仏寺
小堂四所

観音堂【音瀧にあり。瞽女観音と称す。いつの頃か、瞽女音瀧に落ちて死す。その霊を祭る。故に眼病を祈るに験ありと云う】。大日堂【古野添】。観音堂【中畑】。馬頭観音堂【上ノ山】。

○古蹟
隠館カクレヤカタ

 村の東南、尺岳に登る道の谷間にあり。香月家記に「永正元年(1504)甲子三月、豊後より田原太郎・田北刑部・瓜生左近等、多勢を以て畑城を攻む。香月興則、詰の城隠館に引き籠もる。猫臥岩より上には、敵、近づくことかなわず。豊後勢、攻むる事を得ず。退散すとあるは、即ち此所なり。

香月畑城址
村の南、畑山にあり。戦場田甫と云う所より四町ばかりあり。山谷険阻なり。山上平地三段ばかりの隍ホリの迹、水手の迹のこれり。香月庄司秀則が居城なり。香月氏は世々香月本村に館舎を造りて住みたりしが、秀則が時に源平の乱起こりし故に、城を畑山に築き要害の地とす。平日無事なる時は館舎に居り、軍事あれば畑山の城に入れり。秀則が八代の孫備前守弘考、征西将軍の宮、九国に下向したまいける時、武蔵国の住人勅使河原小三郎と云う者、御供にて下りける。この時弘考に女子のみありて未だ男子なし。勅使河原が子を養いて婿とす。香月五三郎則村と号し、将軍の宮に仕えける。後に市瀬村の城を築きて居城とす。弘考、後に男子出来て兵部少輔頼考と云う。則村が妻の弟なり。畑の城にあり。則村と不和にして市瀬と畑と数度戦いに及べり。然れども畑は弱く市瀬は強くなるによって、家人は多くは市瀬に従いければ、畑城に怺えかねて頼考は大内義弘を頼み周防に行きける。是によりて、香月畑の城、断絶せり。市瀬の城は則村が子義則、麻生氏が婿となって後に麻生を姓とす。市瀬麻生と云うはこの義則が末なり。頼考が孫を香月七郎太夫興則と云う。その前三代は大内の家臣にて山口に居る。文明元年(1469)己丑、大内義興より興則を香月の庄に遣わし、畑の城に新たに家作りて再び香月の家を起こしける。香月家記に、大永二年(1522)辛巳【大永二年は壬午なり。年暦に誤りあるべし】七月二十七日、鷹取の城主毛利宮内少輔鎮廉(※大友方)、多勢を催し畑の城を攻む。城番古川弾正左衛門・香月兵庫助・檜垣大蔵等、能く守る。則考はその頃山口にあり。この由を告ぐるに因りて渡海す。是を聞きて毛利(※鎮廉)も軍を引き入る等載せたるもこの城のことなり。

釈王寺址
観音山音瀧の側にあり。昔、音瀧山釈王寺と云える寺ありしと云う。今も観音堂あり。此所、窮谷の中にあれども、泉石樹竹、愛すべし。幽邃の地なり。

金鉱跡
 高尾山の半腹、日ノ尾にあり。嘉永年中(1848-1854)、旧藩にて掘る試みありしかども、金少なくして止む。  

5.附記(物産)

○附記
   物産

一 米    三百三十石       生出         
一 麦    百二十八石三斗一升
一 大豆      二石
一 小豆      一石二斗
一 豌豆      一石
一 唐豆     八斗
一 蕎麦      五石
一 梅       一石
一 柿       十万
一 小栗      六石
一 筍       千把
一 茶       五貫目
一 煙草      百斤
一 鶏    二百四十羽
一 鶏卵    五千二百
一 家鴨    三十五羽
一 家鴨卵     五百
一 蜂蜜     八貫目

一 筍      五百把 輸出
   此代金     六円五十銭
一 山菜【山芋・蕨・款冬フキ・葛根・橐吾ツワブキ・獨活ウド】
   此代金     八円七十五銭
一 椎茸     九百五斤
   此代金   四十五円
一 柿      七万三千五百
   此代金   四十四円十銭
一 小栗       五石
   此代金   十二円五十銭
一 褚皮     二十斤
   此代金   二十七円
一 半紙      五百束 【松山清平・松山兵一製】
   此代金   四十五円
一 塵紙       千束 【四戸製】
   此代金   四十円
一 鶏卵     二千五百
   此代金    十五円
一 家鴨卵    二百五十
   此代金     一円五十銭
一 葛     百五十貫目
   此代金   二十五円
一 櫨実      四万斤
   此代金  四百八十円
一 材木      八百才
   此代金     三円二十銭
一 薪      三千八百貫目
   此代金    十七円十銭
一 生蝋   五十丸 【加藤清次郎・酒井一郎製】
   此代金    五百円

総計   金 千二百八十円六十五銭 

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